その衝動が風となり落ち葉を舞い上がらせた

 
フロントアクトでの出演交渉の結果、当然若手なのでノルマ設定が科される。

当時の若手アーティストの苦悩の1つであるノルマについて、後輩のラッパー・神門がノルマ地獄という曲を作ってたが、ホントに苦しい。
1枚2000円のチケットを20枚とか30枚とかをノルマとし、客を呼び込む。
今の年齢で冷静に考えれば、客を持っていない、客を呼べるわけではない若手に時間を売っているのは当然だと思う。実績ないし。
けど、これはホントに深く当時の僕を悩ませたとこである。

ライブの持ち時間は10分。仮に1MC+1DJで20枚ノルマだと40000円でこの時間を買うのだ。
当時のイベントはだいたい22pm~5amが一般的で、リハなどを含めて約8時間。分にして480分。
神戸の箱はどんなに高くても一晩20万円以内だった。 
10分に換算するとだいたい4500円いかないくらいか。

まあイベントってのは、ゲストのギャラからドリンク保証、フライヤー印刷など様々な経費がかかるのだが、
少なく見積もっても10分で40000円は本当に若手には苦しい金額だ。
必ず、どこかで潤う人がいる事もわかっている。
それでも僕はまずは出る事に意味を見出していたので、フライヤーの片隅に小さく,ホント小さく記載された、
【FRONT ACT LIVE】という凄い疎外感のある括りでのライブに挑んだ。

フロントアクトは僕を含め3組くらい出てたと思う。
出番は3番目、この中では一番いい位置で出させていただいた。
オーガナイザーは僕の名前や、活動をしている事は知っているが、実際にライブは見た事がないそうで、
ただの未経験者って訳ではないので、この位置でと配慮してくれたらしい。

少しでも人が増えている時間が希望だけど、まぁ、何番目でもいい。

フロントアクト1組、そして2組が終わった。
正直、僕には何の印象にも残らなかった。
だって、イベントオーガナイザーやその取り巻きに影響を受けて、虎視眈々と出演を狙ってた若手一派だ。
当然、メインアクトと同じ雰囲気のライブをやるんだから、インパクトは何もなかった。

自分たちは、このイベントとは毛色が異なる事、もっとhiphopって色々なスタイルがあるんだよってこと。
これさえ表現出来ればいい。それだけで今日の意味があると思っていた。
そして、出番がきた。

ライブが始まるとき。
だいたいは、前のライブDJが繋ぎ用の曲をかけ、次のアクトがライブ準備を行い、整えば1曲目のトラックが流れライブが始まる。

でも、僕はいきなりMICを握る事はしなかった。
前のライブの雰囲気やライブDJの残していったトラックから、自分たちの曲に繋ぐのは正直気持ち悪い。
音楽的な流れもクソもない、単純な流れ作業とすら思えた。

そこで僕らは、神戸の尊敬するスケーターでありトラックメイカーのJNY THE WEEL(スケーターならFESN 43-26関連て言えばわかるはず)の12インチA面2曲目に収録されている、
PURPLE ALARMというインストを1曲丸々掛けた。時間にして4,5分位か。


先述したが、僕はここのオーディエンスは日本語ラップや、そのイベントのアクトやゲストこそがhiphopで、
それ以外には基本的に興味がないのか知らないのかは知らないが、話題になる事はなく音楽的視野は本当に狭いと感じていた。

この曲が神戸から出ている正真正銘、hiphopである事を、僕から提案した形だ。

当然客はザワつきはじめ状況を理解出来ずにいたと思う。そりゃライブがすぐに始まると思ってるのに、今までのアクトと少し雰囲気の違うラッパーがステージ袖に待機しているのに、
全然ライブが始まらない。このイベントじゃ、インスト4分って時間、超長い。
JNYくんのヴァイオリンがフロアで響き、かなりの異空間と、オーディエンスがステージを懐疑的な目で見る状況が整ったのを見計らい、僕は一気に1バース目を始めた。

僕は3曲キックした。
僕の曲は、プジョヘンザー、セイホーみたいなコール&レスポンスはないし、パーティSHITもない。
基本的に、怒りから出来上がった曲が多い。

1曲、2曲と勢いでこなし、最後の3曲目。
僕の相方DJ takeには、このインストをかけてって事だけ伝えてた。
実は3曲目は、ライムもフローも無い、ただビートにのせてオーディエンスへ問いかけた語りに近い即興の提言だった。
フリースタイルラップでもない、ただただ僕の感情を言葉にしただけ。

オーディエンスにしたら、なんだコイツは?って思うひと多かったと思う。
今でもしっかり覚えているけど、
僕はフロアに向けて、ちゃんと自分の目で、耳で音楽を聴けよ、パーティのノリだけで音楽語んなよ。
可能性は無限大だよ、くだらない損得勘定や先輩後輩の上下関係とかぶっ壊せ、って。

僕らは基本的にここにはいない、クラブはここだけじゃない、いい音楽は自分で探せって。

僕のライブは10分の予定だったけど、押してしまい20分近くやっちゃったと思う。
オーガナイザーさんには申し訳ない。
ライブ中、フロアから黄色い声も、掛け合いも無かったけど、ライブが終わったら、大きな歓声と拍手をもらった。
よくわかんないけど、僕の言いたい事や熱意だけは伝わったんだと。こんなhiphopもあるんだと。

「落葉って、ちょっとヤバイね」って。


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